千葉の街道をゆく、今回は成田街道 佐倉編(後編) 【カベルナリア吉田】
前回の成田街道佐倉編(前編)に続きます。くすっと笑えるライター独自の視点をお楽しみください♪
解剖して首を洗った!?
京成臼井駅近くに残る道標から、国道296号を東へ進む。細い坂道が枝分かれして、上った先に光勝寺。かつて一帯を治めた臼井氏の始祖・常康の菩提寺だそうだが、境内には梅と桜の木が茂り「うすい花の八ヶ寺」のひとつでもある。そして日本史でも習った時宗の開祖・一遍上人とゆかりがあり、境内には一遍さんの像も立っている。

とにかく小高い丘の上の境内は見晴らしがよく、眼下に臼井の街と、その向こうに広がる印旛沼がよく見える。頭上でウグイスがホーホケキョと鳴き、京成電車がガタンゴトンと通りすぎて――のどかだ。僕は5歳から33歳までを佐倉で過ごしたが、地元にこんな場所があるなんて知らなかった。
だがホンワカした気分で、さらに東に進むと、予想外のものが待っていた。街道沿いの林の中に立つ石碑に「南無妙法蓮華経」の文字が刻まれ、周囲に墓石や観音像が立っている。何やらものものしい雰囲気のこの場所は江原刑場跡。ここで罪人が処刑された、だけではなく解剖も行われた!しかも近くには「首洗井戸」もあるそうだ。ひょえーっ!

恐怖におののきつつ、さらに東へ。粟嶋神社の立派な社殿(瓦葺入母屋造)を見て、丘の上の八幡神社に手を合わせる。そして鹿島橋を渡ると、道沿いに店が並びだし、にぎやかな雰囲気になる。



中華料理屋に焼肉屋、居酒屋にカラオケスナック……おっ、ステーキ専門のファミリーレストランもある。その先に見えてきたのは――おおっ、佐倉城址公園。
千葉県民ならご存知の通り、佐倉にはお城があった。そして城址公園には、これまたご存知の通り、佐倉を代表する名所・歴史民俗博物館がある。

史跡と名所が目白押し
僕は佐倉に30年近く住んでいた。だがなんと城址公園と歴史民俗博物館、通称「歴博」を訪ねるのは初めてだ!灯台下暮らし、近すぎて地元を代表する名所に、足を運んでいなかったのだ。
まあ歴博については、今さら僕が紹介する必要もないけれど(しかも行ったことがなかったし)日本の歴史と文化を総合的に展示する国立博物館で、佐倉城跡の一角にドーンと立っている。佐倉どころか千葉を代表する、由緒正しい博物館だ。
そして一帯は明治時代に佐倉連隊が置かれた場所でもある。1874(明治7)年に歩兵第二連隊が、佐倉に駐屯した。そして園内には幕末の佐倉藩主・堀田正陸(まさよし)さんの像も立っている。

1825(文政8)年に藩主となった堀田さんは、その後幕府の老中となり、アメリカ総領事タウンゼント・ハリスと日米修好通商条約の締結交渉に尽力した。園内にはハリスさんの像も立っていて、とにかく佐倉は歴史の深い場所なのだと、改めて痛感する。

歴博と城址公園の前を抜けると、それまで京成線に沿っていた旧街道及び国道296号は、路線から南へ離れる。道沿いに……おおっ、元・佐倉市民には懐かしい「佐倉はおみその産地です」看板が見えてくる。1887(明治20)年創業の「ヤマニ味噌」で特選の味噌を1パックと、千葉県民のソウルフード「みそピーナッツ」も買う。帰宅後の食事が楽しみだ。

そのすぐ近くには、千葉氏の菩提寺・海隣寺。ここは日清戦争の時、清国人の捕虜収容所でもあったそうだ。さらに千年以上の歴史があるという麻賀多(まかた)神社も。佐倉では「まかたさま」として親しまれてきた神社で、市内に同じ名前の神社が10社以上あるそうだ。


新町交差点で296号から離れ、路地に迷いこんだ先に、木々に挟まれて細い坂道が延びている。昼でも暗いこの坂道の名は「くらやみ坂」。そして進んだ先には茅葺屋根の武家屋敷が、勇壮な姿で佇んでいる。河原家、但馬家、武居家の家屋が残り、市内に残る武家住宅の中でも特に古いものだとか。


そして武家屋敷が並ぶ「武家屋敷通り」を進んだ先には、これまたうっそうと茂る竹林に挟まれた「ひよどり坂」が延びている。木漏れ日が注ぐ坂道は、木々の香りが爽やかで、その名の通り小鳥の声だけが聞こえる。歩くほどに時がさかのぼり、江戸時代にタイムスリップしたような、錯覚に浸ってしまう。

路地から幹線道に戻り、旧街道をさらに東へ進んだ先には、佐倉順天堂記念館。順天堂は1843(天保14)年に創設された蘭医学の塾兼研究所で、日本の西洋医学実践の先駆けとなった場所だ。

とにかく佐倉は見どころ満載、そして僕はこんなにも歴史の深い場所に住んでいたのかと、街道を歩いて改めて実感した。
佐倉踏破のゴールはドヴォルザーク
街が途切れ、周辺の雰囲気が寂しくなってくる。「さくら斎場」がポツンと立ち、その先に――「酒々井町」の表示。
広い佐倉をやっと歩き抜けた。そして酒々井の先は、もう成田だ。
その昔、この道を大勢の人が、成田を目指して歩いたんだなあ……とか思っていると、午後5時のチャイムが響く。メロディはドヴォルザークの『新世界より』~いわゆる『遠き山に日はおちて』。

佐倉踏破を祝い、どこかで一杯飲んで帰ろう。歴史の風情にたっぷり触れたあとだから、和の情緒あふれる店を探して――とか思ったのだが結局ステーキ屋に行き、300グラムのメガステーキをガッツリ食べてしまったのだった。というわけで元・市民も知らない歴史と名所が満載の佐倉、ぜひ皆さんにも散歩してほしい。

